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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)1893号 判決

裁判所書記官

物井昭三

本店所在地

東京都荒川区荒川五丁目三四番一号

株式会社小松製作所

(右代表者代表取締役小松輝芳)

本籍

東京都北区西が丘一丁目一二二番地四

住居

東京都北区西が丘一丁目一六番六号

会社役員

小松輝芳

大正一三年三月二二日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社小松製作所を罰金二〇〇〇万円に、被告人小松輝芳を懲役一年二月にそれぞれ処する。

被告人小松輝芳に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社小松製作所(以下「被告会社」という。)は、東京都荒川区荒川五丁目三四番一号に本店を置き、自動製袋充填包装機械の製造、販売等を目的とする資本金二〇〇〇万円の株式会社であり、被告人小松輝芳は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人小松は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七三一八万三〇八六円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年五月三一日、東京都荒川区西日暮里六丁目七番二号所在の所轄荒川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三四七五万五二三〇円でこれに対する法人税額が一一九七万七九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第一二三一号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二七三三万二一〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一五三五万四二〇〇円を免れ、

第二  昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九二一三万二五四九円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五五年五月三一日、前記荒川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三二三六万九五四九円でこれに対する法人税額が一一一五万〇二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三五〇三万六九〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額二三八八万六七〇〇円を免れ、

第三  昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億九五七六万四三三一円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五六年六月一日、前記荒川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九〇二八万九二二七円でこれに対する法人税額が三四二〇万九六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の3)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額七六三九万二九〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額四二一八万三三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人小松輝芳の当公判廷における供述

一  被告人小松輝芳の検察官に対する供述調書二通

一  前田文夫及び小松ユキ(二通)の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の役員賞与に関する調査書二通

一  検察官、被告会社、被告人小松輝芳及び被告人らの弁護人吉沢寛作成の合意書面

一  荒川税務署長作成の証明書

一  東京法務局北出張所登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五七年押第一二三一号の1ないし3)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告会社の判示逋脱所得中、昭和五四年三月期の一六〇万円、同五五年三月期の一四〇万円、同五六年三月期の一八〇万円について、右各金額は法人税法三五条二項にいう「使用人としての職務を有する役員」たる被告会社の取締役小笠原義国に支払われた右各同額の賞与に関するものであるところ、被告人小松及び同被告人の依額を受けて被告会社の決算・申告事務を担当した監査役前田文夫において、右小笠原が法人税法三五条五項、同法施行令七一条一項四号に該当する役員であることを知らなかったため、誤って、同人に対する賞与を損金処理したことから生じたものであるから、右各金額ないしこれに対応する税額については、被告人小松に逋脱の犯意はない旨主張する。

よって、判断するに、前記法人税法三五条五項、同法施行令七一条一項四号の規定は所得金額の計算方法を定めたものであるが、被告人小松及び前記前田において、これを知っていたとする確証はない。しかしながら前掲各証拠によれば、右施行令適用の前提となる事実関係自体については、被告人小松及び右前田の認識に欠けるところはなかったうえ、更に、本件においては以下の事実が認められる。すなわち、被告人小松は、本件脱税の手段として、事業年度により若干の異同はあるものの、予め受取手形の一部を帳簿に記載せず、あるいは帳簿に記載した受取手形の一部を決算にあたり除外し、架空仕入れを計上し、期末たな卸の除外を行い、更に、売上除外発覚防止のため、従業員賞与、交際費及び荷造運賃を過少計上するなどしていたものであるが、その具体的実行については、監査役の前田文夫に対して、「なるべく税金が安くなるように、うまくやって下さい。」などと大まかな指示を与えて、同人や取締役である妻のユキに一任していたもので、こうした不正を含む決算・申告事務の報酬として、毎期末に多額の賞与を前田に支払っていた。とくに本件で問題とされている役員賞与については、問題の小笠原義国を含む六名(昭和五四年三月期は五名)につき各期にわたり相当額(六〇〇万円ないし一〇二四万円)を簿外から支出していたほか、前田に対する右期末賞与を損金(雑費)に計上するなどの不正を行っていた。以上の事実が認められる。

これによっても明らかなように、被告人小松が所得秘匿の手段として意図したところのものは、極めて広範多岐にわたっており、その対象となる費目には、本件で問題となっている「役員賞与」も含まれているうえ、その費目のうち、小笠原の賞与に関する弁護人主張の誤った税務処理も、被告人小松において、税理士に依頼しておれば容易に回避できたはずであったにもかかわらず、前田に不正行為の実行を一任していたばかりに(同人が正規の税理士であると信じていた旨の同被告人の弁解供述は信用できない。)、こうした不正を伴うルーズな姿勢が影響して生じたものといえないではない。また、この誤処理の修正によって増加する所得金額ないし税額が全体の中で占める比率も極めて少ないものである。こうした事情のもとでは、右のような結果はむしろ被告人小松の予め容認するところであったと認めざるを得ない。しかも、本件は、被告人小松において、前記のような事前の所得秘匿行為をなしたうえで判示過少申告行為に及んだものであるから、右過少申告行為自体も全体として所得秘匿の手段たる不正の行為ということができる。したがって、免れた税額の中にこれと無関係な特段の事情に基づく部分が認められない本件においては、弁護人指摘の部分を含め、申告税額と正当税額との差額全額について右不正行為との因果関係が肯定されることはもとよりのこと、逋脱の犯意においても欠けるところはないというべきである。

結局、弁護人の主張は採用することができない。

(法令の適用)

被告人小松の判示第一及び第二の各所為は、いずれも、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては右改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、同第三の所為は法人税法一五九条一項に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

更に、被告人小松の判示各所為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示第一及び第二の各罪につき、右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により、右改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に、また、同第三の罪につき、法人税法一六四条一項により、同法一五九条一項の罰金刑にそれぞれ処せられるべきところ、いずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により、各罪所定の罰金を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金二〇〇〇万円に処することとする。

なお、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により、その二分の一ずつを各被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおり、被告人小松が、被告会社の業務に関し、三事業年度にわたり、合計約二億円余の所得を秘匿し、合計約八〇〇〇万円余の法人税を免れたという事案である。その所得申告率は約四四パーセント、税逋脱率は約五八パーセントであって、いずれも芳しくない。犯行の動機として、被告人小松は、取引先の担当者に接待にあてたり、不況に備えて利益を蓄積するため、裏金を作ろうとした旨供述しているが、格別斟酌すべきものとは思われない。また所得秘匿の手段も、前示認定にもあるように、予め、あるいは決算期において受取手形を除外し、架空仕入を計上し、たな卸の除外を行うなど、巧妙悪質であること、更に、被告会社は、昭和四五年に一度青色申告の承認を取り消され、その後、もはや不正を行わないということで再び青色申告の承認を受けたのに、再度本件各犯行に及んだものであって、こうした事情を考慮すると、被告人らの刑事責任は軽視することができない。

しかし、被告人小松も、現在では自己の行為を反省しており、今後は二度とかかる不祥事を起こさない旨述べ、既に修正申告も行って諸税も完納しているので、その他諸般の事情を勘案して、主文掲記の刑を量定する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 原田敏章 裁判官 原田卓)

別紙(一) 修正損益計算書

自 昭和53年4月1日

至 昭和54年3月31日

株式会社 小松製作所 No.1

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和53年4月1日

至 昭和54年3月31日

No.2

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

自 昭和54年4月1日

至 昭和55年3月31日

株式会社 小松製作所 No.1

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和54年4月1日

至 昭和55年3月31日

No.2

〈省略〉

別紙(三) 修正損益計算書

自 昭和55年4月1日

至 昭和56年3月31日

株式会社 小松製作所 No.1

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和55年4月1日

至 昭和56年3月31日

No.2

〈省略〉

別紙(四) 税額計算書

株式会社 小松製作所

〈省略〉

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